計算プリントは「取り組み方」で効果が変わる—2つの研究論文
同じ計算プリントでも「目標を決めて、時間を計って、記録を見えるようにする」だけで効果が大きく変わる——小学生を対象にした2つの研究論文から、家庭で活かせるポイントを整理しました。

※本記事は、執筆過程の一部でAIを補助的に活用することがあります。引用論文や参考資料については原典を確認し、最終的な内容は編集部の責任で確認・公開しています。
こんにちは、アリスパス学習研究所です。
今回は、日本の小学生を対象にした2つの研究論文を読み、そこから共通して言えることを整理しました。結論を先に言うと、
同じ計算プリントでも、「目標を決めて、時間を計って、記録を見えるようにする」というひと工夫で、効果が変わってくるということです。
前提:計算は「解ける」だけでは足りない
2つの論文に共通するキーワードが「流暢性(りゅうちょうせい)」です。流暢性とは、正確に、かつ速く解けること。
「ゆっくりなら解けるからOK」ではない、というのがポイントです。基礎的な計算が速く正確にできる状態(自動化)になっていないと、
- 筆算や文章題など、より高度な内容の学習でつまずきやすい
- せっかく覚えた計算も、時間が経つと忘れやすい
ことが指摘されています(Gersten & Chard, 1999 ほか)。九九や一桁のたし算・ひき算は、「考えれば解ける」から「考えなくても手が動く」まで練習する価値がある、ということです。
論文1:個別指導で九九の流暢性を伸ばした研究
野田・松見(2014)「小学2年生の掛け算スキルの流暢性の向上を目指した応用行動分析的指導の効果」特殊教育学研究, 52(4), 287-296.
九九の習得に困難のあった小学2年生の男児2名に、放課後の個別指導を週2回行った研究です。指導の中身は、
- 3C学習法(Cover-Copy-Compare):問題と答えを見る→隠す→自分で書く→めくって答え合わせ、という手順の学習法。ほとんど間違えずに練習できるのが特長です。
- 30秒タイムトライアル+目標設定:目標は「これまでの最高記録より1問多く」。達成したらシールと言葉でほめる。結果は棒グラフにして本人に見せる。
その結果、2名とも九九の正答数が大きく伸び、指導終了から4か月後も効果が維持されていました。
もう一つ興味深いのは、誤答がなかなか減らなかった子への対応です。1名は正答数自体は大きく伸びたものの、「5×4」や「5×7」といった特定の問題を繰り返し間違えていたため、間違えた問題だけを集めたシートを作って練習させたところ、正答数がさらに伸び(導入前と比べて平均正答数で約5割増)、誤答も減りました。ただし、誤答は最後まで0問にはならず、研究で設定された習得基準(2試行連続で正答10問以上かつ誤答0問)は満たせませんでした。論文では、「ごし(5×4)」と「ごしち(5×7)」の読みの混同が原因で、音読を多く含む練習方法がこの子には合わなかった可能性が考察されています。
論文2:クラス全体への指導で効果を比べた研究
尾之上・井口・丸野(2017)「目標設定と成績のグラフ化が計算スキルの流暢性の形成に及ぼす効果——小学3・4年生を対象とした学級規模での指導を通して」教育心理学研究, 65(1), 132-144.
こちらは1対1の指導ではなく、クラス全体(小3の2学級と小4の1学級)で行われた研究です。毎日の算数の授業の冒頭に、九九の2分間タイムトライアルを実施し、次の2つの条件を比較しました。
- 統制条件:前日の正答数・誤答数を確認して間違い直しをし、タイムトライアルに取り組む(約4分)
- 実験条件:上記に加えて、児童自身が「前日の点数を棒グラフに塗る」「前日の点数+1点のところに今日の目標の線を引く」を行う(約8分)
つまり、点数を知らされること自体は両条件で共通で、違いは「目標設定+グラフ化」があるかどうかだけです。
結果は、「目標設定+グラフ化」を加えた条件のほうが、タイムトライアルだけの条件よりも成績が有意に高くなりました。小3の比較でも、小4で途中から条件を切り替えた比較でも、同じ結果でした。
さらに注目したいのは子どもの実感です。「自分の成長を実感できたか」という質問への回答と実際の成績の伸びに正の相関がみられたのは、目標設定+グラフ化の条件だけでした。つまりグラフ化は、子どもが自分の進歩を正確に感じ取るための道具として働いていたと考えられます。担任の先生からも「一人一人が自分の目標をクリアするために取り組む雰囲気に変わった」という声が挙がっています。
2つの論文から言えること
対象も規模も違う2つの研究ですが、効果のあった指導には同じ構造がありました。
1. 時間を計って練習する(タイムトライアル)
「全部解けたら終わり」ではなく、「決まった時間で何問解けるか」を測る。流暢性(正確さ+速さ)を伸ばすには、速さを測る練習形式が土台になります。論文1では30秒、論文2では2分と、子どもの負担に合わせて時間は調整されています。
2. 目標は「昨日の自分+1問」
どちらの研究でも、目標は「過去の自分の記録より1問多く」というルールで設定されていました(論文1では「これまでの最高記録+1問」、論文2では「前日の点数+1点」)。他の子との比較ではなく、過去の自分との比較。しかも「+1問」という必ず手が届きそうなスモールステップです。毎回目標が更新されるので、達成の機会が何度も訪れ、やる気が続きます。
3. 記録を「見える化」する
どちらの研究でも、成績を棒グラフにして子ども自身が見られるようにしていました。点数を口で伝えるだけでなく、グラフが伸びていく様子が目に見えることで、「自分は伸びている」という実感につながります。論文2では、このグラフ塗りを子ども自身に実施させており、それでも(だからこそ)効果が出ています。
おまけ:間違いは「宝」
論文1で誤答が減らなかった子への対応が示すように、同じ問題を繰り返し間違えている場合は、その問題だけを取り出して集中練習することが正答数の伸びにつながっています。やみくもに全体を反復するより、誤答の分析が近道になることがあります。
ご家庭でのArithPathプリント活用法
この2つの研究の知見は、そのままご家庭で再現できます。ArithPathの計算プリントを使った手順の例です。
- 時間を決めて計る:プリント1枚に取り組む時間を決めます(低学年なら30秒〜1分、慣れてきたら2分など)。時間が来たら途中でも終了。
- 丸つけをして、間違えた問題は正しい答えを書き直す:答え合わせはすぐに。これも研究で使われていた手順です。
- 正答数をグラフに塗る:方眼紙やノートに、日付と正答数の棒グラフをお子さん自身に塗ってもらいます。
- 明日の目標に線を引く:「今日の点数+1問」のところに赤で線を引く。「明日はここまで!」
- 目標を達成したらしっかりほめる:論文1ではシール、言葉でのほめ言葉が使われていました。届かなかった日は「惜しかったね、また明日がんばろう」でOK。
1日5分程度で回せるサイクルです。ポイントは、プリントの枚数を増やすことよりも、この「計る→塗る→目標を引く」のサイクルを毎日続けることです。
まとめ
- 計算は「解ける」だけでなく「速く正確に解ける(流暢性)」まで練習する価値がある
- タイムトライアル単独より、目標設定(昨日の自分+1問)と記録のグラフ化を組み合わせると効果が高い
- グラフ化は、子どもが自分の成長を実感するための道具になる
- 繰り返し間違える問題は、取り出して集中練習する。(ただし、同じ方法で繰り返し取り組んでも間違いが解消されない可能性がある)
参考文献
- 野田航・松見淳子 (2014). 小学2年生の掛け算スキルの流暢性の向上を目指した応用行動分析的指導の効果——Cover-Copy-Compareの応用 特殊教育学研究, 52(4), 287-296.
- 尾之上高哉・井口豊・丸野俊一 (2017). 目標設定と成績のグラフ化が計算スキルの流暢性の形成に及ぼす効果——小学3・4年生を対象とした学級規模での指導を通して 教育心理学研究, 65(1), 132-144.

