学び方はひとつじゃない。それでも大切にしたい「自分で工夫する力」—2つの研究論文
学び方の重心は「工夫」「量」「環境」の3タイプに分かれていた——そのうち勉強のやり方そのものを工夫する子ほど学習が長続きする。量や環境は補助にとどめるという考え方を、2つの研究論文から整理しました。

※本記事は、執筆過程の一部でAIを補助的に活用することがあります。引用論文や参考資料については原典を確認し、最終的な内容は編集部の責任で確認・公開しています。
こんにちは、アリスパス学習研究所です。
「コツコツ量をこなすのが一番」「結局、いい塾を選べるかで決まる」「うちの子はごほうびがないと動かない」。子どもの勉強をめぐる考え方は、ご家庭によって本当にさまざまです。今回は、こうした学び方の"持論"を扱った2つの研究論文をご紹介します。結論を先に言うと、
学び方にもやる気の整え方にもたくさんのタイプがある。その中で2つの研究に共通して見えてくるのは、「自分でやり方を工夫する」タイプの学び方の大切さということです。
前提:誰もが「学習観」を持っている
「学習とはどのようにして起こるのか、どうしたら効果的に進むのか」についての信念を、植木(2002)は学習観と呼んでいます。ふだん意識することはほとんどありませんが、宿題への声かけ、塾選び、ごほうびの出し方。いろいろな場面で、親も子もそれぞれの学習観にもとづいて動いています。この学習観に正面から向き合ったのが1本目の論文です。
論文1:学び方の"持論"は3タイプに分かれる
植木(2002)「高校生の学習観の構造」教育心理学研究, 50(3), 301-310.
どのように勉強すれば効果的だと考えるかを高校生121名に自由記述で尋ね、そこから作った質問項目を別の高校生に実施して分析した研究です(対象はいずれも県立高校の大学進学クラス。質問紙調査は265名と366名の2段階)。研究者が上から枠を決めるのではなく、生徒自身のことばから拾い上げたのが特徴で、学習観は次の3タイプにまとまりました。
- 方略志向:やり方を自分で工夫することを重んじる。「勉強のしかたは自分で変えていくと効果がある」
- 学習量志向:量と反復を重んじる。「1日何時間と決めてコツコツと勉強していれば、いつか報われる」
- 環境志向:よい環境に身を置くことを重んじる。「良い塾に通っていることが、成績を上げることにつながる」「教え方のうまい先生に習っていれば、成績は良くなるものだ」
3つ目の環境志向は、この研究で新たに見つかったタイプです。塾や先生といった「効果的な環境」に身を置けば、勉強はいつの間にか身につく、という考え方ですね。
結果はどうだったか。まず、どれか1つの学習観に強く賛同する生徒は、残りの2つには否定的になりがちでした。学び方の持論は「併存」しにくいようです。そしてもう1つ興味深いのが、環境志向の生徒は、覚え方の工夫(精緻化方略)は方略志向の生徒と同じくらい使うと答えた一方、「問題を解いていて分からなくなったとき、どこでつまずいているのか一度考えてみる」といった自己チェック(モニタリング方略)は、学習量志向の生徒と同じくらいしか使わないと答えたことです。論文では、学習を環境に委ねてしまうと、自分の理解を自分で確かめながら進める方略が身につきにくいのではないか、と考察されています。
そのうえで著者は、1つの学習観にとらわれることは自己制御的な学習を進める上で不利ではないかとし、「自分自身で学習方法を工夫することが効果的」と考える学習観の形成が、自己制御的な学習では特に重要だと述べています(当然、学習の成立には学習量も環境も必要である、という留保つきです)。なお、これは質問紙による相関研究で、学習観が方略使用の原因かどうかまでは特定できないこと、方略の使用が自己報告であることは論文自身が留保しています。
論文2:やる気の整え方にも「続く工夫」と「続かない工夫」がある
伊藤・神藤(2003)「自己効力感、不安、自己調整学習方略、学習の持続性に関する因果モデルの検証」日本教育工学会論文誌, 27(4), 377-385.
こちらは神戸市の公立中学校1〜3年生449名(分析対象349名)に、定期試験の1ヶ月前と1週間前の2回の調査を行った研究です。注目するのは、自分のやる気をどう整えるかという自己動機づけ方略。ここにも多様なタイプがあります。
内発的調整方略(勉強そのものや取り組み方を工夫してやる気を整える)
- めりはり方略:「ここまではやるぞ」と、量と時間を決めて勉強する
- 内容方略:興味のあることと関係づける、ゴロあわせで覚える
- 想像方略:うまくいった時のことや、将来のためになることを考える
- 整理方略:色ペンでノートを工夫する、机の上を片付けてから始める
- 社会的方略:友だちと教え合う、問題を出し合う
外発的調整方略(外的な手段でやる気を整える)
- 報酬方略:終わったらお菓子を食べる、よくできたら親からごほうびをもらう
- 負担軽減方略:得意なところから始める、やる気が出るまで待つ
分析の結果、内発的調整方略をよく使う生徒ほど学習が長続きし(「勉強をしていると、すぐにあきてしまう」といった項目と負の関連)、外発的調整方略をよく使う生徒ほど長続きしない傾向が示されました。また、「勉強がしっかりできると思う」という自己効力感が高い生徒ほど、内発的調整方略をよく使い、外発的調整方略は使っていませんでした。
ただし論文は、外発的調整方略にも学習の負担やストレスを和らげる緩衝的な働きがある可能性に触れ、今後の課題としています。ごほうびが即「悪」というわけではなさそうです。
2つの論文から言えること
対象の学年も切り口も違う2つの研究ですが、並べて読むと見えてくることがあります。
1. 学び方は本当に多様
3つの学習観に、論文2で扱われただけでも7種類のやる気の整え方。まず「学び方にはタイプがある」と知ること自体に意味があると思います。親の学習観と子どもの学び方が違う、というのもよくあることです。
2. それでも「おすすめ」は共通している
論文1で、覚え方の工夫と自己チェックの両方をよく使うと答えたのは、方略志向の生徒だけでした。覚え方の工夫は塾や先生が与えてくれることもありますが、「自分はどこまで分かっているか」を確かめる自己チェックだけは、人に代わってもらえません。そして論文2で学習の長続きと結びついたのは、勉強そのものを工夫する内発的調整方略。別々の研究が別々の角度から、「自分でやり方を工夫する」学び方という同じ方向を指しています。
3. 量・塾・ごほうびは「主役にしない」
学習量も環境もごほうびも、それ自体が悪いわけではありません。植木(2002)も、理想的な学習者は3つの学習観のすべてを備えた上で、状況に応じて的確な学習行動をとれる人ではないか、と述べています。問題になるのは、どれか1つに全部を預けてしまうことです。
4. 小学生への当てはめには注意
2つの研究の対象はどちらも中高生で、質問紙にもとづく研究です。小学生では大人の支えの比重がずっと大きくなります。次のセクションは、この2つの研究の知見を踏まえた編集部からの提案で、論文で検証された手続きそのものではありません。
ご家庭でのArithPathプリント活用法
2つの論文のことばでいえば、家庭で育てたいのは「方略志向」の学習観(論文1)、内発的調整方略(論文2)、そして自己チェック(論文1のモニタリング)の3つです。毎日の計算プリントの中で、それぞれを少しずつ練習する例を挙げます。
始める前に「今日はどこまで?」を子どもと決める:「プリント1枚を5分で」のように、量と時間を子ども自身に決めさせます。論文2に出てきた、めりはり方略の家庭版です。
声かけに「どうやったら?」を混ぜる:「何枚やったの?」だけだと、学習量志向のメッセージになりがちです。「どうやったら速くなりそう?」「どうやって覚えた?」と、工夫に光を当てる質問を足す。方略志向の学習観を、ふだんの声かけで伝えていく試みです。
覚え方の工夫を一緒に試す:ゴロあわせ(内容方略)、色ペンでの整理(整理方略)、おうちの人との問題の出し合い(社会的方略)。論文2の内発的調整方略は、どれも家庭で真似できるものばかりです。効いたかどうかを子どもと話すところまでがセットです。
丸つけの前に「全部合ってると思う?」と聞く:自分の出来を自分で見積もる練習です。論文1で方略志向の生徒だけがよく使うと答えていた自己チェック(モニタリング)の、いちばん小さい形です。
ごほうびは工夫の後に:論文2では、ごほうびや負担軽減に頼るやる気の整え方は、長続きのしにくさと結びついていました。とはいえ「終わったらお菓子」をやめる必要はありません。先に「今日の工夫、効いたね」を話してから。主役は工夫、ごほうびは脇役です。
まとめ
- 学び方の持論(学習観)には方略志向・学習量志向・環境志向の3タイプがあり、人はどれか1つに偏りやすい
- 環境志向の生徒は、自分の理解を自分で確かめる方略(モニタリング)をあまり使わないと答える傾向が報告されている
- やる気の整え方のうち、勉強そのものを工夫する内発的なタイプをよく使う生徒ほど学習が長続きし、ごほうびや負担軽減に頼るタイプをよく使う生徒ほど長続きしない傾向があった
- 2つの研究から共通して見えてくるのは、「自分でやり方を工夫する」学び方の大切さ。量・環境・ごほうびは主役にせず組み合わせる
- いずれも中高生対象の質問紙研究。小学生に応用するときは、大人の声かけと支えをセットに
参考文献
- 植木理恵 (2002). 高校生の学習観の構造 教育心理学研究, 50(3), 301-310.
- 伊藤崇達・神藤貴昭 (2003). 自己効力感、不安、自己調整学習方略、学習の持続性に関する因果モデルの検証——認知的側面と動機づけ的側面の自己調整学習方略に着目して 日本教育工学会論文誌, 27(4), 377-385.

